ご挨拶
皆様こんにちは。
アンティークコインのショールーム、コインパレスの室田でございます。
私自身のロンドン滞在中の体験を元に、英国社会に華を添える芳しい紅茶を取り巻く幾つかの物語をご紹介させていただくコラム、「英国紅茶の万華鏡」。
本日は、第4話「アンティークディーラーの自宅におけるティータイム」をお届けさせていただきます。
どうぞ最後までご一読ください。
第4話「アンティーク商の自宅でしか体験することのできない究極のティータイム」
ロンドンの北西部に位置するノッティングヒルは、週末に大規模なアンティークと生鮮食品を取引する「ポートベロー・マーケット」が開催されることでよく知られている地域ですが、ロンドン市民の普段の生活を支えながらも世界各地からこの街にやって来る観光客にとっての週末の気晴らしにうってつけの人気スポットとしても機能しています。
1999年公開のロマンティック・コメディー映画「ノッティングヒルの恋人」の舞台ともなったこの瀟洒な街は、昔からロンドン郊外の閑静な住宅街として人気があり、映画がクローズアップしていたどこか懐かしさを感じさせる街の情景はそのままに、何とも言えない居心地の良さを感じさせるところです。
周辺には隠れ家的なカフェやレストランが点在しており、時の経過を忘れさせるほどに寛いだ時間を約束する特別な空間が広がっています。
しかし、土曜日になりますとその様相はガラリと変わり、宝探しさながらにアンティークを求めて世界各地からやって来るコレクターとプロのディーラーたちで街全体が溢れ返り、容易に前進するのもままならないほどの混雑を見せます。
地下鉄ノッティングヒル駅からマーケットまでのアクセスは至って簡単で、骨董品目当ての人々が皆一様にそこから北に延びるポートベロー・ロードを真っすぐに進んで行きますので、その流れに従って前進するだけで目的地に辿り着くことができます。
毎週土曜日に開かれるアンティークマーケットはこの種のものとしてはロンドン最大規模を誇り、常設店舗も結構ありますが、その殆どは土曜日のみの営業ですので、おのずとこの日にアンティークファンが大挙して集まって来ることになります。
無数に存在するアーケードや常設の建物の中にはありとあらゆるアンティークを扱う店舗が並んでいますが、総じてクオリティーの高い品々が売買の対象となっているため、マーケット全体が骨董品入手の穴場として国際的に注目されています。
観光都市ロンドンの一般的なイメージとは異なるもう一つの顔を見せるこの特殊な空間に私が初めて足を踏み入れたのは今から約30年前のことでした。
アンティークに関する予備知識を全く持たずしてこの秘境を偶然にも発見してしまった当時の私は、毎週土曜日にはここに来て、英国アンティークが与える恩恵に言葉では言い表せないほどの満足感をじっくりと味わったものでした。
屋外のストールを含めますとざっと見積もっても2000件ほどの店舗が軒を連ねている様相は圧巻であり、家具や大型のアンティークよりは比較的入手しやすい銀製品、陶磁器、ガラス工芸品などが豊富に取り揃えられているのが何よりでした。
また一般のロンドン市民にとって、ここは普段の生活空間を支える気の利いた必需品や室内装飾品を調達する場所でもあるため、以前と比べて全体的に値上がりしたとはいえ、今でも何とか良心的な価格帯が保たれているのは嬉しい限りです。
大英帝国時代の栄光の歴史の残滓と揶揄されることもある相応の年代を経たこれらの骨董品に見入っていますと、いかに英国人が古いものを大切にする国民であるか、またそれらを後世に伝えるためにどれ程までに細心の注意を払い続けて来たかを気付かずにはいられません。
また同時に、人から人へと受け継がれて長い年月を生き延びてきた英国アンティークそのもののしたたかささえ感じる時もあります。
毎週土曜日にはここに姿を見せる私の顔を覚えてくれるディーラーも多く、これまで結構大胆な値段交渉にも快く応じてくれたディーラーも大勢います。
アンティーク大国イギリスのロンドンを代表するこのアンティークマーケットの雑踏の中に英国アンティークの掘り出し物を発見する瞬間は、言葉で言い表すことのできない程の興奮を覚えるものです。
売れても売れてもどこからともなく出てくる上質なアンティークの数々は、かつて一度たりとも戦に負けたことのない英国ならではの自尊心の象徴であり、現代に生きる英国人にとっては子々孫々と受け継いて行かなくてはならない文化遺産のようなものなのでしょうか。
今朝ここに到着したのは7時50分ごろでしたので、気が付けばもう4時間以上もアンティークを物色していたことになりますが、持参した大型のショッピングバッグは今朝の取引の成立によって入手するに至った戦利品で膨らみ、ずっしりと重くなっています。
マーケットを北上して最初の四つ角を超えて少し進みますと、左手に「アドミラル・ヴァ―ノン」と呼ばれる常設の建物が目に入ります。
私はこの前を通る時はいつでも、以前懇意にしていたジャスティン・バーウッドという名のディーラーとここで初めて出会った日のことを思い出します。
もうすでに15年ぐらい前のことになりますが、当時ジャスティンはこの建物の地階に店を構えていました。
ロンドン市内ではなかなかお目にかかることのできない年代物の額縁を多く取り揃えていたため、他の店で購入したままの絵画や銅版画をせっせとここに運び込んでは、格調高い王朝時代の額縁に収めてもらうためにジャスティンに託したものでした。
いつでも良心的な料金で快く仕事を引き受けてくれる腕のいい製額職人であるジャスティンは、アンティーク調度品を用いての室内装飾を得意とする私にとって無くてはならない存在でした。
大分若く見える彼でしたが、その時、ちょうど40歳になったばかりであったということが後から分かりました。
歴史に造詣が深く、アンティークに関する質問であれば何でも即答することのできるジャスティンと私が意気投合するのにさほど時間はかからず、ジャスティンが席を外している間に店番を頼まれたり、時には同じ階にある簡易食堂でイングリッシュブレックファーストを奢ってもらうこともありました。
このマーケットで知り合ったもう一人のディーラー、ジョジーナ・ジェイは17世紀から19世紀にかけて製造された英国ガラス製品を取り扱うポートベローで唯一のディーラーで、その当時は同マーケットの名物ディーラの一人としてロンドン中に名の知れた人物でした。
博学ではあるものの、極端に多弁で若干高圧的な感じのする50代半ばの典型的英国人女性と映るジョジーナに対し、最初は若干苦手意識を持っていた私でしたが、彼女の年代物のワイングラスのコレクションは全て間違いなく折り紙付きの絶品であり、とりわけヴィクトリア時代から20世紀初頭にかけてのワイングラスの一群に名品が多数見受けられたのも事実です。
いかにして歴史的なアンティークガラスの真贋を見極めるかを熱心に伝授してくれるジョジーナの言葉に耳を傾け、知識を深めた日々のことが今となっては忘れられません。
私がテーブルコーディネートを含む英国紅茶に関心を持っていることを他のディーラーから聞きつけたジョジーナから是非とも一度とばかりに招待され、ポートベローから離れたジョジーナの自宅を意気揚々と訪問したある晴れやかな日の午後のことを今でも鮮明に記憶しています。
以前から英国人のお宅に招かれて本格的な英国式の紅茶を楽しむことができたならどんなに素晴らしいかと夢見ていた私の願いを初めて叶えてくれたのは、他ならぬジョジーナでした。
訪問先はロンドン北部の高級住宅街、セント・ジョンズウッドにあるセキュリティーのしっかりした建物の最上階にあり、南に面したリビングの窓から、180度の広がりを見せるリージェンツパークの絵画的な景観を一望することのできる絶好のロケーションでした。
そしてダイニングルームに招き入れられた私は思わず歓声を上げてしまいました。
アンティークのカトラリーや食器で埋め尽くされたティーテーブルの絶妙なコーディネートの美しさに、しばし見入ってしまう程の感動を覚えました。
厳選された年代物のアンティークのみを用いて英国式にテーブルセッティングすることがどれ程までに気高い奥ゆかしさを感じさせるものであるかということを、その時初めて目の当たりにしたというのが実感でした。
純銀のティーセットは1829年、つまりジョージ4世の時代に制作されたものとのことで、デザート用のプレートはヴィクトリア期、そしてその他の陶磁器類もすべて年代を経たジョージ王朝時代の物であることをジョジーナは一つ一つ丁寧に説明してくれました。
ジョージアンのカップで頂く春積みのダージリンの香りはこの世の物とは思えないほどに芳しく、ジョジーナ自身の手製によるスコーンやケーキ類の美味と、それらを趣味よく盛りつけたアンティーク磁器の数々の絶妙な色彩感がその場の空気との見事なまでの調和を形成しており、嬉しさの余り自然と微笑がこぼれてしまう私でした。
ジョジーナの勧めに従って何度も紅茶とケーキのおかわりを堪能した後、徐々に落ち着きを取り戻しつつあった私でしたが、その時初めて我に返って改めて室内を見渡しますと、ここまでアンティークに囲まれている必要が実際にあるのだろうかと疑問に思えるほどに、その空間は年代物の家具や調度品で埋め尽くされており壮観でした。
「英国紅茶はプロのアンティークディーラーの自宅でごちそうになるに限る」と心底思った瞬間でした。
我が人生において最も記憶に残る紅茶体験の夢を、いともあっさりと叶えてくれたジョジーナ・ジェイでしたが、残念ながらその後、ポートベローにめっきり姿を見せなくなりました。
きっと病気か何かで長期休業中かと思いきや然もあらず、叔父にあたる身寄りのない資産家の老人の急逝に際して彼女自身が姪として莫大な資産を相続することになったため、ポートベローで細々とワイングラスを売る必要がなくなり、店じまいをしてスイスに移住したというのがもっぱらの噂でした。
今でも、あのアーケードに潜り込み、暗い通路を抜けてかつて彼女の店があった奥まった明るいところまでたどり着きますと、燦然と輝くアンティークのワイングラスやデキャンタ―の名品が所狭しと並べられていた棚や、来るものを拒まずにガラスの真贋の見極め方を伝授すべく熱弁を振るうジョジーナの自信に満ちた姿が蘇ってきます。
このマーケットに何気なく足を踏み入れた当時20歳そこそこであった私でしたが、そこで発見したアンティークや出会った人物が、一向に興味が尽きず捉えどころの無い魅力を湛えた国、英国について実に多くのことを教えてくれました。
あれから早くも30年が経過しましたが、ショッピングバッグを片手に地下鉄に飛び乗り、寸暇を惜しんでマーケットに駆け付けたアンティーク三昧の日々のことを懐かしく回想していますと、あの忘れられない午後のひと時に彩を添えた紅茶の味と香りと、セント・ジョンズウッドのフラットの最上階から階下に見下ろしたジョージ王朝時代さながらの世にも見事な英国の絶景が脳裏に蘇ってきます。
お知らせ
コラムを最後までお楽しみいただき、ありがとうございました。
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