2023 チャールズ3世 ウィンドラッシュ世代75周年記念 50ペンスプルーフカラーピエフォー銀貨 未鑑定 箱付き【ご予約承り品】

第二次世界大戦後の英国の驚異的な復興を移民として支えた「ウィンドラッシュ世代」

第二次世界大戦後の英国は戦勝国であったにも拘らず、長きにわたって混沌たる様相を呈していました。勝利から5年を経た1950年代初頭になっても物資の配給制度は続き、英国全体が生活苦に喘いたのが実状でした。しかし、1952年に英国は急激な転換期を迎えることになります。同年2月6日に国王ジョージ6世の崩御に際して若きエリザベス王女が国王エリザベス2世として即位し、イギリス連合王国は新たな局面を迎えます。翌年1953年6月2日にはロンドンのウェストミンスター寺院にて壮麗豪華な戴冠式が挙行され、人々は固唾を呑んで史上初となるテレビ放映に見入り、式の偉容に釘付けとなりました。式の劇的効果ゆえか、英国社会全体が戦後からの完全脱却を信じ込もうとしていた感がありましたが、世相は依然として厳しいものでした。そのような時代背景のもと、1948年に旧大英帝国植民地に属するカリブ海沿岸諸国からの約50万人もの移民を乗せた船舶が突然英国にやってきました。戦後の英国社会の人手不足を解決するための各種労働に従事することを主な目的として英国にやって来たそれらの人々は、乗船していた格安船「エンパイア・ウィンドラッシュ号」に因んで後に「ウィンドラッシュ世代」と呼ばれるようになります。それらの働き手たちは貴重な労働力として英国社会のあらゆる場面で活躍していましたが、涙ぐましい忍耐と努力が報われ、英国の市民権を獲得するに至りました。そして英国を第二の故郷と定め、そこで誕生した子供たちは第二世代として英国の社会の一員となりました。慢性的な人員不足を解決する目的で英国政府によって招聘され、合法的に入国を果たしたウィンドラッシュ世代の人々でしたが、英国での半世紀以上に及んだ滞在の果てに苦難の道を辿ることになろうとは知る由もなかったことでしょう。2010年に英国政府は突如として不法移民に対する「敵対環境」政策を導入し、英国内の移民は法的な滞在資格や就労資格を有していることを証明しなくてはならなくなりました。ここで生じた問題は、ウィンドラッシュ世代に属するカリブ諸国からの移民の殆どが合法的に入国した法的証拠を保有していなかった事でした。結果的に、人生の大半を英国で送ってきた人々が突然国外退去を命じられたり、失業するリスクにさらされる事態を招きました。1948年当時に彼らがウィンドラッシュ号で入国した記録は確かに存在したはずですが、この事件が起きる数年前に当時の政権によって不要と判断され、秘密裏に破棄されていたという不祥事が後に発覚しました。この事件は、英国社会の官僚主義的な一面が招く恐ろしい実態を暴露し、犠牲者に対する名誉回復を始めとする一連の政策見直しの気運へと繋がっていきます。その後、英政府は公式に謝罪し、経済的補償はやっとのことで約束されました。一見、現代英国社会の不条理を映し出す鏡のような内容を特徴とするウィンドラッシュ事件ですが、かつての大英帝国の負の遺産としての移民問題を始めとする諸問題が21世紀の現代においても未解決であるという現実を直視させる結果を招いたことは何とも嘆かわしいことです。

幾多の苦難を超越して英国に生涯を捧げた移民たちの75年間を恒久化する記念碑的コイン

このような未曾有の災難を乗り越えて今、ウィンドラッシュ世代の人々がこれまで英国に対して果たしてきた貢献を再評価する気運か高まりつつあります。本年2023年は彼らが故郷を離れて英国に入国してから75年目となる節目の時でもあります。英国ロイヤルミントはこの度のアニバーサリーを記念して一枚の記念50ペンスコインを発表しました。それは悲惨な境遇を乗り越えて英国の発展に寄与した移民たちのこれまでの功績を讃えて、それを恒久化するためのコインの姿をした永遠の記念碑でもあります。コイン裏面にはウィンドラッシュ世代を代表する若々しい男女の肖像が描かれており、その背後には彼らが夢と希望を背負って到着した未知の国、イギリス連合王国の国旗「ユニオンジャック」が色彩豊かに描かれています。特別着色仕上げによるこの裏面の意匠は、自身ウィンドラッシュ世代の両親の元に誕生した作家にしてヴィジュアル・アーティストでもあるヴァルダ・ジャクソンの豊かな独創性と鋭い洞察力の産物です。コイン表面には2022年9月8日のエリザベス2世の崩御に伴って王位を継承した新国王チャールズ3世の治世初のコイン肖像が見られます。ロイヤルミントを代表する実力派デザイナーの一人として存在感を発揮するマーティン・ジェニングスによる精彩に富んだ国王の横顔は、人物描写の極みを堪能することのできる最高度の芸術作品です。肖像周囲の碑文もまた非常に特徴的であり、通常ラテン語で表記されることの多い王名は、より現代的な英語でCHARLESと刻まれています。表面の国王の肖像と裏面のユニオンジャックの意匠は、何よりもウィンドラッシュ世代の人々が75年間もの長い旅路の末に最終的に獲得した正当な権利を象徴しているように思われます。昨日の災禍は今日の勝利でもあります。この決して忘れてはならない困難を克服して独自の境地を切り開いたウィンドラッシュ世代を称える記念コインの発行を実現した英国ロイヤルミントの英断に対し、心からの讃辞を捧げたいとの思いを新たにした次第であります。