2020 エリザベス2世 スリーグレーセス 200ポンド2オンスプルーフ金貨 ロイヤルミント発行 未鑑定 箱付き

ナポレオン戦争後の英国の平和を表現する三美神

英国貨幣史上に燦然と輝くアンティークコインの傑作「スリーグレーセス」。名匠ウィリアム・ワイオンによるこの優れたデザインは、ナポレオン戦争によって脅威に晒されていた英連合王国諸国の結束と恒久的な平和を願って制作されたものです。そこに描かれているのは世にも優美な三美神の天国世界です。19世紀前半の英国で一世を風靡していた新しい芸術様式である新古典様式は、装飾過多の傾向が強い大陸由来のバロック・ロココ様式に対する古代ギリシャ・ローマ時代の自由闊達な気風を主な表現手段とするものです。偶然にも英国的価値観と合致する芸術スタイルとして19世紀の英国社会で大いに受け入れられました。ワイオンが活躍した頃は正にこの様式が隆盛を極めていた時でした。古典的な様式感が主流を成す「スリーグレーセス」のデザインは、古風でありながらも、当時としては極めて斬新であったことが窺えます。その様式感を武器にこの三美神が表現し得たのは、究極の女性的感性と強固な政治的メッセージでした。女神たちの足元にそれぞれの国家の表象が掲げられることによって、このデザインが単なる美女の戯れを描いたものではなく、英国の政治的優位を確証するために制作されたものであることを読み取ることができます。

200年前の伝説は今後受けつかれて行くべき新時代の古典

ウィリアム・ワイオンの代表作として名高い「スリーグレーセス」のデザインですが、2020年のロイヤルミントによるリマスター版の発行によってコインデザインの永遠の主題となりました。当金貨表面に刻まれているのはロイヤルミントの主力デザイナー、ジョディ―・クラークによるエリザベス二世の「第5肖像」です。緩やかに流れるような曲線を描く女王の白髪と深く刻まれた皺は、頭上のダイアモンド・ダイアデムの輝かしさを感動的に引き立てています。裏面の三美神はギリシャ神話の最高神ゼウスの娘達で、それぞれ若さ、歓喜、そして気品を象徴すると伝えられています。壮大なるギリシャ神話の世界を新古典様式の意匠によって再現する「スリーグレーセス」は、この度のリマスターによって21世紀の古典として受け継がれて行く永遠の生命を得ました。

「スリーグレーセス」が金貨としてリマスターされることの歴史的意義

究極の希少価値によって余りにも有名なオリジナル「スリーグレーセス」。銀貨のみがよく知られていますが、実は金貨もプルーフ状態で数枚発行されていました。ただそれらのコインがオークションに出品されることはかつて殆どなく、門外不出のコインとして広く知られています。現存が確認できるのはイングランドとスコットランドの博物館が所蔵する3枚で、数年前に東京のオークションで落札されたものを含めて4枚のみが過去に確認されていたに過ぎず、あとは全て銀貨のみです。

「スリーグレーセス」1817年　メトロポリタン美術館所蔵

ここに今回「スリーグレーセス」が金貨としてリマスターされる貨幣学的大義が見えてきます。黄金の輝きを伴って蘇るジョージ王朝時代の華「スリーグレーセス」のリマスター版を確実に手に入れる時が遂にやってきました。