本 書籍 『English Silver Coinage since1649 SPINK 7th EDITION』

17世紀以降の英国銀貨の精髄を網羅するコインファンにとっての座右の書

2020年に英国のスピンク社が発行したモーリス・ブル著「English Silver Coinage」第7版は、17世紀以降に発行された英国銀貨の精髄を今日の世に伝える最良の資料に他なりません。1649年から1949年までの300年間に発行された英国銀貨のほぼ全てを収録するこの大規模な著作は、単独にて発行された英国銀貨関連の書籍としてはその最右翼に位置するものです。その最もな理由としては、当書籍が共和政期真っ只中の1649年に発行された銀貨を以て始まっていることの英国貨幣学上の重要性が挙げられます。議会派の中心人物として台頭した後の護国卿オリバー・クロムウェル主導の下に樹立された共和政の初期に当たるこの一年は、英国史全体にとっての一大変革期でもありました。1642年頃から激化する王党派と議会派の対立は、やがて清教徒革命へと繋がります。また驚くことに、革命の初期に当たるこの時期には、未だ国王チャールズ1世の肖像を掲げる各種貨幣が、ハンマー打ちの手法によって鋳造されていました。しかし1648年になりますと、王党派の劣勢はより顕著となり、翌1649年1月にチャールズ1世は議会派によって捕らえられ、自身が生前愛して止まなかったホワイトホール宮殿のバンケティングハウス前にて公開処刑に処せられます。この英国史上に深い痕跡を残した血なまぐさい事件は、17世紀の英国最大の政変として記憶されるとともに、英国貨幣界にとっての新たな時代を象徴する出来事でもありました。当書の冒頭部分においては、なぜ当書が1649年以降に発行された銀貨の詳細から開始されたかを歴史的考証に基づいて力説している点が読者に強い印象を与えることでしょう。その後、1660年にはチャールズ1世の遺児であったチャールズ2世が王政復古を成就し、即位の三年後、つまり1663年になりますと、英国貨幣界はそれまでの手打ち式によるコインの鋳造を完全に機械打ち式へと改めます。この変革こそは、17世紀後半の英国が断行したその後の英国貨幣の方向性の明示であり、当書が新たな時代の背景としてのチャールズ1世の時代とクロムウェルによる共和政期に発行された英国銀貨の傑作群を巻頭に掲げる最大の理由ではないかと考えられます。歴史的に著名な英国銀貨の傑作を数多く収蔵する当書は、17世紀のステュアート朝から18・19世紀のハノーヴァー朝を経て20世紀のウィンザー朝へと続く英国銀貨の系譜を時系列で紹介する、恐らくは世界最高の一冊であると言えます。巻末に付された補遺は、それらの銀貨の発行枚数を始めとする豊富な資料を網羅しており、歴史を数字によって生々しく記録しています。英国銀貨に関する第一級の資料としての重要性はもちろんのこと、豊富な写真の掲載によって初心者向きの図鑑としても十分に楽しめる当書「English Silver Coinage」第7版は、英国銀貨の奥深い魅力と歴史的な真価を世に知らしめる絶好の書籍であり、コイン関係者にとっての座右の書であることは間違いありません。