1899 ヴィクトリア女王 オールド（ヴェールド）ヘッド 聖ジョージ竜退治 1ソブリン金貨 未鑑定

・アンティークコインのため、1枚1枚に異なる風合い、変色、摩耗、傷などが見られます。それぞれのコインが持つ個性豊かな表情をご堪能いただけます。

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自由貿易からの脱却によって帝国主義を確立したヴィクトリア朝後期の英国

1837年から63年7ヶ月の長きにわたってグレートブリテン連合王国の宗主として君臨したヴィクトリア女王。その時代は「ヴィクトリア朝」と称され、英国が有史以来最大の国家へと変貌を遂げ、正に全世界を統括した未曾有の期間として記憶されています。前世紀に勃興した産業革命の長期的な成功によって、ヴィクトリア朝初期の英国は世界に先駆けて工業大国としての地位を確立し、いつしか「世界の工場」と呼ばれるまでに発展を遂げていました。その繁栄を何よりも象徴していたのは、国家の顔である女王自身と王室の権威そのものでは無かったかと思われます。そして女王を補佐したのは、政務における実力を有していた女王の最愛の夫アルバート公爵でした。1851年には史上初の万国博覧会がロンドンで開催されましたが、ジョージ3世の治世下に興った産業革命の創生から約100年の時を経て、ヴィクトリア朝初期の英国の工業生産力の集大成を内外に誇示する貴重な機会となりました。名誉総裁としてその運営に参加していたアルバート公爵自らが同博覧会の陣頭指揮を執り、空前の成功へと導いたことは英国王室史上特筆に値することです。全世界から輸入された原材料を用いて生産された商材を次々と輸出して行く様は、当時の英国の完全に工業化された流通システムの世界に先駆けての優位を強く印象付けました。それを可能としていたのが、ヴィクトリア朝初期の英国が推進していた自由貿易制度であったことは確かです。しかし同朝後期になりますと、英国は次第に植民地政策を主軸とする帝国主義へと傾倒するようになります。当時の英国は、既に英国の主要な植民地として成功を収めていたインドを中心とするアジア・アフリカ地域での植民地政策に重きを置くようになり、大英帝国の名の下に世界最大にして史上最強国家へと変貌を遂げつつありました。ヴィクトリア朝後期とは、広義において英国が帝国主義による覇権を確立した1870年代初頭から女王が崩御する1901年までの約30年間を指すことが一般的です。その期間は英国の帝国主義の完成期として世界史上に深く刻まれています。1877年にはヴィクトリア女王の宿願であったインド帝位の獲得が実現し、英国によるインド帝国の建設が本格化します。また、植民地貿易に目を移しますと、東インド会社の時代以降、南アフリカ経由での航海を強いられていたインド貿易でしたが、同時期の英国政府はスエズ運河運営会社が保有する株の買収に成功し、地中海とアラビア半島を経由する新たなルートを獲得します。インド航路の所要時間が大幅に短縮されたことによって輸送コストは大幅に軽減され、英国によるインド貿易は一層の繁栄を享受することになります。かつて無い程の膨張を繰り広げる大英帝国の黄金期の頂点に到達したヴィクトリア朝でしたが、女王の崩御によって唐突に幕を閉じたその時、20世紀というかつてない動乱の100年が眼前に広がっていました。

ヴィクトリア朝最晩年の1899年に発行された文化遺産としての価値を持つソブリン金貨

ヴィクトリア朝後期の英国を象徴する英国金貨の逸品をご紹介させていただきます。ヴィクトリア女王崩御の年、1901年の僅か2年前の1899に発行されたこのソブリン金貨は、英国貨幣史を象徴する表裏の優れたデザインによって、永遠の価値を有するものです。「ソブリン金貨」の名称は、まず何よりも15世紀にテューダー朝を興した名君ヘンリー7世の時代に誕生した法定金貨を想起させるものですが、19世紀初頭に導入された金本位制の流れに沿って新たに発行された金貨もまた、過去に廃止された「ソブリン」の名を踏襲するものとして復活を遂げます。ワーテルローの戦いによってナポレオン軍に対する圧倒的勝利を収めた英国でしたが、国内の経済状況は惨憺たる様相を呈していました。その後、国内経済は徐々に回復し、ヴィクトリア女王が即位する1830年代には古代ローマ時代の平和を象徴するラテン語「パクス・ロマーナ」にちなんで「パクス・ブリタニカ」なる語が派生し、女王の統治を軸として空前の平和を享受するようになります。当コインの裏面には、大英帝国の象徴であるヴィクトリア女王最晩年にして最後の公式コイン肖像として誕生した「オールドヘッド」が掲げられています。1861年に王配アルバート公爵に先立たれた女王は、その後約40年間にわたって喪に服していたことで知られていますが、当コインポートレートは喪服の象徴であるヴェールが挿入されていることから「ヴェールドヘッド」の愛称によっても名高く、ヴィクトリア期に発行された金貨の中でも特に注目度の高い逸品として知られています。ヴィクトリア女王の公式コイン肖像としては通算三作目にして最後となったこの作品は、当時のロイヤルミントを代表するコイン・メダル彫刻家であったサー・トマス・ブロックの最高傑作として1893年に誕生しました。1896年には在位60周年「ダイアモンド・ジュビリー」を迎えたヴィクトリア女王でしたが、当ポートレートはそれを待たずして製作されたことになります。「第2肖像」にも増して高い完成度を見せる当ポートレートの周囲には、定型のラテン語碑文に加えてインド皇帝のタイトルが挿入されており、ヴィクトリア朝後期の時代背景を物語っています。コイン裏面には、1817年以降、英国金貨の裏面を飾ってきた大作「聖ジョージの竜退治」が見られます。当時のロイヤルミントを代表する巨星としてウィリアム・ワイオンと共に英国貨幣界の人気を二分した才人ベネデット・ピストゥルッチの創造による当作品は、今なお英国貨幣のデザインの最高傑作として受け継がれています。馬上の聖ゲオルギウスの姿は、何よりも聡明な英国君主の威厳を感じさせるものです。表裏に19世紀を代表する二大コインデザインを配する当ソブリン金貨は、時代を超えて継承される英国貨幣の伝統と格式を今日に伝える文化遺産に違いありません。