1953 エリザベス2世 戴冠記念メダル 金銀銅3枚セット

テレビ放映を巡って議論されたエリザベス2世の世紀の戴冠式

1952年2月6日のジョージ6世の崩御を受けて即位したエリザベス2世はその時若干25歳でした。新女王の即位と共に女王の夫であるエディンバラ公爵とチャーチル英国首相を中心とする戴冠式のための委員会が設立され、翌年の本番に向けての準備が着々と進められます。一日限りの式のために14か月もの歳月が費やされますが、その世紀の舞台に向けての壮大なるプランは秘密裏に構想されていました。1953年6月2日にロンドンのウェストミンスター寺院において挙行されたエリザベス2世の戴冠式は、歴代英国王の先例に倣って計画された儀式ではあったものの、それまでには実現不可能であった数々の新機軸を生みだした現代の英国ならではのものとして広く認識されています。まず式の全容を映し出すテレビ放映が実現したのはエリザベス2世の戴冠式が初めてでした。1937年のジョージ6世の戴冠式でさえも、会場内部にカメラ機材を設置することを巡って英国議会の承認を得ることが出来なかったほどです。しかし新女王の戴冠式の際もこの問題は再燃していました。まず首相のチャーチルが難色を示しましたが、女王はこれを跳ね除け、テレビ放映を強く要求したと言われています。こうしてこの晴れ舞台はBBC 放送用のモノクロ映像によって英国民が視聴できるようになり、公式な記録用としてのカラー映像の撮影も同時に行われ永久に記録されることとなりました。そしてイギリス連合王国全土に、この記念すべき瞬間の瑞々しい感動を届けることが可能となり、新女王とそれらの国々の臣民との間に新たな協調関係が生まれました。

世紀の戴冠式を寿ぐ晴れやかな空気を伝える記念メダルセット

1952年に英国が迎えた待望の新女王即位の重要性は、翌年の戴冠式によって一層強調され、ロイヤルミントによって発行された数々の記念メダルによって恒久化されたと言っても過言ではありません。金、銀、銅の3種のマテリアルを用いて制作された当メダルセットは、戴冠式の偉容を如実に伝えると共に、エリザベス2世の神格化された美しさと威厳を同時に誇示する役割を果たしています。その優れた表裏のデザインの創造主は、20世紀の英国を代表するコインとメダルのデザイナーの一人、ポール・ヴィンツェ（1907-1984）です。ハンガリーのブダペスト出身のヴィンツェは、大戦前にナチス・ドイツの迫害を逃れて渡英し、戦後同地に帰化した異色の才人です。多くの貨幣学研究者から絶賛されているその作風と完成度の高さは、エリザベス2世の戴冠式記念メダルの制作というまたとない機会を得て結実し、才能の限りを尽くしてキャリア上における最高傑作を世に送り出しました。

メダルの表裏に刻まれた新女王の艶やかな絵姿と政治的な含意

表面に描かれたエリザベス2世の肖像画は、即位当時若干25歳であった女王の若々しい美しさと気品を醸し出しています。女王の頭上に輝くのは、祖母のメアリー王妃伝来の英国王室の秘宝「大英帝国とアイルランドの少女たちのティアラ」です。裏面のデザインは、メダルデザイナーとしてのヴィンツェの天才を実証しています。そこには若い女性が植物に水を与えている平和で感動的な姿が刻まれていますが、英連合王国三国（イングランド、スコットランド、アイルランド）の国花（バラ・アザミ・シャムロック）を守護する女性の姿は、そのままそれらの国々の安定と平和を見届ける若き英国君主の姿に置き換えることが出来ます。３種のメダルのうち、特に18カラット・ゴールドのものは限定25枚しか発行されておらず、この歴史的な儀式の究極の記念品としての絶対的価値を表出しています。戴冠式の年に発行された多種多様なコインとメダルの中で、当作品はそのデザイン性と希少価値において特筆されるものであるため、マニアにとってはこの種のものの中で最も入手困難な記念メダルセットの一つとして知られています。

金メダル　MS67
銀メダル　MS63
銅メダル　MS64BN