セントヘレナ 2024 チャールズ3世 ウナ＆ライオン 5・2・1・1/2・1/4ソブリンプルーフ金貨5枚セット 未鑑定 箱付き

英国人にとっての理想の家庭像を構築した19世紀のヴィクトリア女王夫妻

1837年の即位以降、63年7か月の長きにわたってグレートブリテン連合王国の国王として同国を統治した一世一代の名君ヴィクトリア女王。その治世は後年「ヴィクトリア朝」と称され、史上最大の帝国と謳われた大英帝国の最盛期として歴史上に偉大なる足跡を残しました。イギリスがこのヴィクトリア期に完成期を迎えたことについては様々な要因が考えられますが、直接的な理由としては女王の即位以前から全世界的な領土の拡大と、それらの土地で展開された産業革命の恩恵が挙げられます。ハノーヴァ朝の第3代国王ジョージ3世の即位と共に勃興した産業革命が18世紀末から19世紀初頭にかけての同国に与えた影響は計り知れず、「世界の工場」と呼ばれた同国にして初めて実現できたのではないでしょうか。そのような基盤の下に、連合王国は女王を君主として迎えたことになります。全世界の陸地面積の約5分の1を傘下に収めた在りし日の大英帝国は、女王をその頂点として有史以来最大の帝国を形成していました。しかし、若干18歳でこの一大帝国の女主人となった女王には、いかにして大国の君主たるに相応しい威厳を身に付けるかという難題がありました。数限りない公務を遂行することによって徐々に周囲の尊崇の対象となった当時のヴィクトリアでしたが、その涙ぐましい努力を常に陰で支えたのは、相思相愛の良きパートナーとして女王を公私共に献身的に支えた夫アルバート公爵その人でした。女王の即位の3年後の1840年にロンドンのセントジェームズ宮殿のチャペルで結ばれた二人は、その後、21年間にわたって王室の威光を高めることに尽力しました。4男5女に恵まれた夫妻は英国人にとっての理想的な家庭像を構築し、連合王国内の全国民にとっての良きプロトタイプとしての役割を果たします。結婚の翌年以降、妊娠と出産を繰り返す女王に代わって政務を担当したのはアルバート公爵でしたが、当初はドイツ出身であったことから、純英国的な議会とは若干距離があったようです。そのような公爵に転機が訪れたのは、1855年に世界に先駆けてロンドンで開催された第一回万国博覧会における活躍の機会でした。公爵自身の意見が反映された同博覧会は大成功を収め、その後の公爵の功名へと繋がります。これによって国家の代表と見なされるに至ったアルバート公爵と今や威厳を兼ね備えたヴィクトリア女王夫妻の人気は飛ぶ鳥を落とす勢いでした。しかし、そのような夫妻の前に立ちはだかったのは、公爵の突然の薨去でした。若干42歳で世を去った公爵でしたが、意気消沈した女王はその後の生涯を懸けて夫の喪に服したことが伝説として語り継がれています。

セントヘレナによるヴィクトリア期の名品「ウナとライオン」の再現

ヴィクトリア女王の時代に隆盛期を迎えた大英帝国でしたが、英国貨幣界もまた、それ迄にはなかった円熟期を迎えていました。それを支えたのは、天才彫刻家ベネデット・ピストゥルッチ（1783-1855）と並んで英国貨幣界の寵児として活躍した大彫刻家ウィリアム・ワイオン（1795=1851）のカリスマ性でした。数多くの傑作を生みだしたワイオンでしたが、中でもヴィクトリア女王の即位から3年目の1839年に発表された「ウナとライオン」は、ワイオンの生涯を代表する傑作として貨幣史上に燦然と輝いています。大英帝国の国民を導く偉大なるヴィクトリア女王をウナに、また女王に付き従う国民をライオンに見立てるという斬新極まりない解釈は、この作品を19世紀の代表作の地位に押し上げたのみならず、英国貨幣史上の最高傑作へと昇華させました。今回ご紹介させていただく作品は、2024年にセントヘレナがリリースしたこのヴィクトリア期の代表作の完成された復刻版です。コイン裏面にはワイオンによる原作を手本として忠実に再現された名作「ウナとライオン」のリマスター版が掲げられています。エリザベス1世時代の文学者、エドマンド・スペンサーの叙事詩「妖精の女王」から着想を得たこのヴィクトリア期の名意匠は、19世紀初頭のイギリスで主流をなしていた芸術様式である新古典様式に則ったものですが、今回のセントヘレナ版によってますます陰影に富んだ同様式ならではの美観が見事に再現されているように思われます。そして今回最大の注目点として、コイン表面に掲げられた新国王チャールズ3世の完全に新しいコインポートレートが挙げられます。2022年の代替わりに際して、イギリス連合王国は国王の「公式第1コイン肖像」を発表し、今や同国の新しい顔となっている感があります。このセントヘレナ版では、それとは対照的な描写手法によって創造された新しくも瑞々しい国王の横顔が描かれていて圧巻です。現代の新たな伝説ともいえる当セントヘレナ版の解禁は、未来に向かって大躍進を続ける現代英国コイン界の華麗なる将来を示唆する一例として特筆に値します。