2019 エリザベス2世 ブリタニア 200ポンド2オンスプルーフ金貨 未鑑定 箱付き Trial of the Pyx 2020

チャールズ2世の世に英国コインの題材として再登場して以来、300年以上もの継続的な人気を博すコインデザインの永遠の典型

英国コインの永遠のテーマとして、過去1000年近くもの歳月を英国史と共に歩んできたブリタニア。その起源は遥か昔、グレートブリテン島が未だ古代ローマの属州であった時代にさかのぼります。「アルビオン」の古名を踏襲していた当時のグレートブリテン島にこの女神と同じ「ブリタニア」の名を新たに与えたのもまたローマ人達で、当時ローマで流通していたコイン上に描かれた時こそはブリタニアが英国コイン上に初めて登場した記念すべき瞬間でした。しかし6世紀頃に始まったローマ帝国の衰退と共に北方のアングロサクソン人たちの侵攻が活発となり、ブリタニアもまた徐々に姿を消すようになります。その後、長らく忘れ去られていたブリタニアでしたが、大航海時代の真っ只中の16世紀に即位したエリザベス1世の治世下において奇跡的に息を吹き返しました。ヨーロッパ各国が海上の覇権を巡って激闘を展開していたこの時代に、海を象徴する女戦士として古代より伝えられていたブリタニアは遂に復権を果たすことになります。当時、世界最強と謳われたスペインの艦隊をアルマダの海戦において撃破したイングランドは、北海沿岸の小国から世界史の檜舞台に一躍躍り出ますが、その勝利の象徴としてブリタニアが取り挙げられたとしても不思議では無かったはずです。しかしブリタニアが英国貨幣史上に再び姿を現すまでにはさらなる年月を要しました。束の間の栄華を誇った共和政を打倒し、王政復古を成就して英国を窮地から救った偉大なる英雄チャールズ2世の即位から12年後の1672年、新しく発行されたファージング銅貨に古代史の象徴であるブリタニアが描かれ、古代史に対する同時代の英国人の憧憬を大いに深めました。古代ローマによる統治時代を除いて、この時英国貨幣界に初めて登場したブリタニアですが、この発行を機に英国コインの定番のテーマとして確固たる地位を確立し、その後300年以上にわたる継続的な人気を欲しいがままにすることになります。

永遠の友ライオンを従えて地平線の彼方を見つめる意気揚々たるブリタニアを描く2019年度版

古代から英国の象徴として継承されてきた女戦士ブリタニア像。1987年に英国ロイヤルミントが創始した「ブリタニア・コイン・シリーズ」は、その後30年以上もの間、最も人気の高いモダンコインシリーズの一つとして毎年リリースされ、ゴールド、シルバー、プラチナ等の各種貴金属による豊富なラインアップを伴ってコインファンを魅了し続けています。このコインシリーズ最大の特徴として、毎年新しく発表されるブリタニアの個性的な肖像が挙げられます。今回ご紹介させていただく2019年度版ブリタニアコインの裏面は、女戦士としての描写はもちろんのこと、大空に広がる雲と海の鮮烈なコントラストを特徴としており、意気揚々たる趣きを湛えたブリタニア自身と彼女が従える勇壮なライオンの力強さを見事なまでに強調しています。三又の槍トライデント、ユニオンジャックの盾、コリント式の兜、とブリタニアを特徴づけるものは当コイン上に全て見られるものの、ライオンを従えてトライデントで未来を指し示し、どこまでも続く地平線の彼方を見つめる崇高感溢れる右向きの肖像は、この作品ならではのオリジナリティーとなっています。コイン表面には今やモダンコインの顔と言っても過言では無い現英国君主エリザベス2世の「第5肖像」が描かれています。1953年に初登場となった初の公式肖像である「ヤングヤング・ポートレート」の解禁から60有余年、円熟の境地に到達した80代の女王を描くこの秀逸なコインポートレートは、ロイヤルミントの若き才人ジョディー・クラークがキャリアを賭けて挑んだ会心の大作です。女王の頭上には歴史的秘宝「ステート・ダイアモンド・ダイアデム」が輝かしく鎮座しています。1821年に挙行されたジョージ4世の戴冠式のためにロンドンの王室御用達ジュエラー「ランデル・アンド・ブリッジ」が制作したと伝えられるこの屈指の秘宝は、王の死後、ヴィクトリア女王を始めとする歴代女性王族によって受け継がれ、1952年には即位に際して現女王がジョージ6世から継承し、20世紀後半を経て21世紀へともたらされました。女王の時代を象徴するモダンコインの裏面に英国国家を象徴する女神ブリタニアが描かれるとは何たる運命の巡り合わせでしょうか。古代ローマ人たちが心に抱いていた究極の理想が、約2000年の時空を超越してようやくこのモダンコインの大作の上に安住の地を見出したようです。