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【Vol.65 グローバルマクロニュース】急激な株価上昇のワケ

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景気は気からと言いますが、金融市場は「気」が影響する場として最も特徴的な存在かもしれません。
今年3月には、年初来で30%を超える下落を日経平均株価は見せました。
ですが、現在では、下落幅のほとんどを取り戻しています。
米国株に至っては、主要株価指数が昨年末高値を超え、ハイテク株で構成されるナスダック総合指数及びS&P500指数は過去最高値を更新しています。
本稿におきましては、現在の金融市場で起きていること、そして株価上昇のドライバや今後ついて考えます。


2019年末の夢

思い起こせば、2019年の株式市場は楽観の中で幕を下ろしました。
投資家は2020年の市場活況に夢を抱きつつ、永遠に株価が上昇するという幻想を抱きました。
人間は線形的に物事を考える生き物です。つまり、現在の趨勢の延長線上で将来を考えてしまいます。
ですから、金融市場が上昇基調にあるときは、永遠にそれが継続すると錯覚してしまうのです。
ですが、昨年末の夢は冬の窓ガラスに吹きかけた息の如く、一瞬の美しさを見せ、瞬く間に消え去ってしまいました。
市場は常に非線型的な曲線を描きます。
つまり一寸先は闇であり、その中に数多くの勝ち負けのストーリーや人々の足跡を残し、そして巻き込みつつ、市場は非線型的な値動きを遺すのです。

1月に本格的に感染拡大し始めたウィルスは、中国にはじまり、アジアを覆い、欧州、北米、そして南半球へと拡大し、全世界を覆いました。
当初、新型コロナウィルスの感染拡大に対し、「アジアで起きた対岸の火事である」という認識を抱いていた欧米投資家は、イタリアでの感染拡大を機に、目を覚ましました。
イタリアでの感染拡大が大きく伝えられた20年2月中旬の夕刻、日経平均株価指数先物は夜間取引において下落の勢いを強めました。
日本株式市場の大半が欧米投資家で占められているため、そして、夜間先物取引は欧米勢の独壇場であるため、欧州勢のマインド悪化が日経平均先物市場にも反映されました。
イタリアでの感染拡大が報じられる以前から、日本国内ではリンク(感染経路)の追えない陽性者が多数発生しており、市中感染が拡大していました。
それでも動じなかった日本株が、欧州での感染拡大を材料として、下落に転じたのです。
欧米投資家は、ウィルスの感染拡大を、「対岸の火事」から、「自分の命さえ脅かす存在」であると、180度認識を変えたのです。
お金という、生命の次に大切なものを賭ける場所である、株式市場の先見性は極めて優れています。
急落が始まって数週間後、感染拡大により、欧州では中国武漢以上の惨事が起こり、その後、世界金融の中心地であるニューヨークは地獄絵の様相を呈すこととなります。

動いたFRB

3月には、壊滅的なニューヨークの様子が全世界に報道され、ウォール街からさえ人影が消えました。
日本の個別株の中には、年初から50%以上の下落を見せる銘柄もありました。
事態が好転したのは3月中旬です。
幾度となく緊急利下げを行っても、底無し沼のように垂直に下がり続ける株価に対して、米国の中央銀行であるFRBは最終手段とも言える、大規模な資産買入プログラムを発動しました。
それは、日本時間の21時に第一報として海外の金融メディアが大きく報じました。
筆者はBloomberg TVを流しつつ、企業の適時開示を読んでいる最中でした。
プログラムの詳細は、MBS(モーゲージ債)からハイイールド債(低格付け債)、地方債の買い入れに至るまで、ヘッドラインとして次々に流れてきます。
FRBがこれほどまで大規模かつ、幅広い資産買入れを行った前例はありませんでした。

さらに、当時はドル需給が逼迫し、急激なドル高が進行していました。
本来、危機時にはリスク回避の円高が進行するはずが、リスク回避の円買いを上回るドル買いが起きていたのです。
ドルに資金が殺到し、ドル需要を示すベーシススワップも跳ね上がり、対主要通貨においてドルが急騰する異常事態が発生していました。
各国中銀へのドル供給も含め、FRBは世界の中央銀行、世界の最後の貸し手として、重要な役割を果たしました。
リーマンショック後に株価を底打ちに導いたQE1でさえ、買入れ資産の種類は限られていました。
3月のFEDの決定後、金融市場は救世主の登場による安堵感につつまれ、市場は活気づき、株価のV字回復を演出するに至りました。

禁じ手は温存

Whatever it takes(いかなる手段をも用いる)とは、欧州の中央銀行であるECBの前総裁、ドラギ氏の発言です。
FRBのパウエル議長もWhatever it takesの姿勢を見せ、ECBにおいても現ラガルド総裁の下、大規模な緩和プログラムが続々と発表されました。
IMFなどの国際機関も協調し、リーマンショックでの教訓を活かしつつ、迅速かつ大胆な行動をとることで、金融市場を破綻の瀬戸際から救いました。

また、グローバルな金融緩和と各国政府における財政支出の両輪(ポリシーミクス)が有効に作用しました。
ただ、FRBは最後の禁じ手である、日銀が行っている大規模な株式型ETF(上場投資信託)の買入れは行いませんでした。
ETF購入については、ボストン連銀総裁の2月下旬の発言をはじめ、FRBの内部でも2-3月に議題となっていたようです。

ですが、法改正等に時間を要することや、一度購入すると売却が困難なことから、一旦見送られることとなりました。
ただ、社債型のETF購入は3月から行われており、低格付け社債のバスケットである、ハイイールド債(HYG)の購入は継続されています。
国債・地方債などの債券は、金利変動リスクを有するものの、一定期間が経過すれば償還という形で保有量が自然に減少します。

ですが、株式には償還という概念が存在しないため、出口のない禁じ手の発動には至らなかったと思われます。
ただ、社債型ETFは償還のないオープンエンドであるため、売却などの出口においては波乱が見られそうです。

そして、金余り相場へ

株式は業績という判断材料をベースとし、理論価格が算出され、市場において値付けされます。
そして、理論から乖離した実態を伴わない株価上昇は、「金余り相場」や「バブル」と呼ばれます。
現在の企業業績は、昨年末より悪化していることは明白です。
現に、「大量の解雇」や「大手企業の大幅赤字」や「消費の低迷」が数字として現れています。

他方で米国株をはじめとした世界の株価指数は、コロナ前の水準を回復しつつあり、ハイテク株で構成される米ナスダック指数やS&P500指数は、過去最高値を連日で更新し、ナスダックに至っては3月の最安値から50%近い上昇率となっています。

景気と業績を比較すると、現状を一目で把握することができます。

景気・・・
2019年末:業績は良好で2020年は明るい一年になるとの見通し
2020年8月:業績は悪化し、見通しが立たない状態

株価・・・
2019年末:過去最高値を更新
2020年8月:19年末の最高値に迫る指数、最高値を更新する指数も

現在の景気は2019年末よりも確実に悪化し、先行きの見通しも立たない中、株価は昨年末の水準を回復しつつあります。

つまり、19年末より現在の方が業績(実態)と株価の乖離は拡大していることが分かります。
集計される業績は、上場する、比較的大規模な企業を中心としたものですが、実態景気の中には中小零細の個人事業主なども含まれます。
そして、このような中小零細が企業数では90%以上を占め、日本経済を支えているのです。
故に、業績以上に実態経済が悪化していることを、我々は念頭に留めておく必要があります。
メディアでは、4-6月期のGDPが過去最悪を記録したと騒がれていますが、これは意図的に経済閉鎖を行った影響が数字として現れたものであり、報道がセンセーショナルである点は否めません。

また、リーマンショックの時には、「100年に1度の金融危機」という言葉が飛び交いましたが、コロナ禍での景気悪化においては、「100年に1度の不況」というヘッドラインが流れています。
つまり、『10年に1度の頻度で「100に1度」』と述べていることになり、メディアの伝え方は金融・経済系において常に偏っている点には注意が必要だと感じます。
ただ、繰り返しになりますが現在の経済情勢がコロナ前より悪化していることだけは明らかです。

中国政府のバブル煽り

金余り相場は、米国や日本に留まりません。
共産圏の拡張を謳う中国でさえ、国策としての実態なき株価上昇が見られます。
7月のとある日の午後、中国の主要株価指数であるA50は急速に値を飛ばしました。
人民日報系の証券誌である、中国証券報において「健全な強気相場(健康牛)が必要だ」、との記事が掲載され、それが中国国内での個人投資家の買いを誘い、株価上昇のきっかけとなりました。
その後も中国株は、激しいアップダウンを繰り返しながら、昨年来高値を更新しています。
新型コロナ発生当初の武漢封鎖時においてさえ、個人投資家に人気の新興株(成長株)が上場する中国「創業版」、指数は高値を更新し続けていました。

武漢の市民は、「巣篭もり投資」を行っていたと言われています。
信用取引(借金での株式売買)を行い、破産リスクを目いっぱいに取ることが、中国人投資家にとってのスタンダードなアクションとなっています。
そのような国民性であり、借金を抱えてでも投資(もはや博打ともいえます)を行う彼らですから、中国証券報の買い煽り記事を目にすれば、買わずにはいられません。

ロビンフッダーの参入と巣篭もり投資

米国においては、新人類の金融市場への参入が目立ちます。
新興証券会社であるロビンフッド社に口座開設を行い、勇猛果敢にトレーディングを行う彼らは、「ロビンフッダー」と呼ばれています。
その多くは、小額の資金で投資を行う小口投資家です。
米国におけるオンライントレーディングの新規口座開設数のピークは、米国でロックダウンが開始され、FRBが大規模な緩和措置に動いた3月に重なります。
米国においても、中国同様の「巣篭もり投資」が行われていたことがわかります。
塵も積もれば山となると言われる通り、3月を底とする米国株の上昇は、1,000ドルから5,000ドル(約10-50万円)を原資とする、小口投資家であるロビンフッダーの買い圧力が背景にあると言われています。
金融界の新規参入者が利用する、ロビンフッド社もまた、金融界における新規参入企業です。
同社のコーポレート理念は「金融の民主化(democratize finance)」です。
無料の手数料、1株未満からの株式購入、小口投資家の参入を容易にし、投資のハードルを下げたことが、金融の民主化につながり、大量の顧客獲得につながっています。

さらに、新規参入の後押しとなったのは、8月に期限切れした、米政府の行う週600ドルの失業給付金上乗せです。
働かなくても毎週600ドルもの現金が振り込まれたため、その資金の多くが株式市場に流入したと言われています。
ロックダウンの後も、そして、給付金の期限切れ後も、ロビンフッダーの取引量は衰えていません。

顕在化する危険な側面

ロビンフッダーは、「なんでも買う人々」であり、その売買はギャンブル性に富んでいます。
5月末には、破綻が確定しており、理論的に無価値で、1ドル未満で売買されていたHERTZ社株式が、ロビンフッダーの買いにより6ドルにまで急騰しました。
こうした無鉄砲で怖いもの知らずの性質が災いし、悲劇が起きました。
20代の男性が、日本円で約7,000万円にものぼる借金を抱え、自殺したというニュースです。

日本のメディアでは取り上げられませんでしたが、ウォールストリートジャーナルやBloombergなど、海外の英語版メディアでは、事件が大きく報道されました。
株式投資は、現物取引を行う限りにおいては、借金を背負うリスクはありません。

ですが、現金や株式を担保として借入れで売買を行う「信用取引」では、レバレッジの影響により、少しの失敗が何倍にも拡散され、失敗は負債という形で身に降りかかることなります。
同社は、プロでも取引を躊躇するオプション取引や、実態を掴みにくい金融派生商品であるCLO、そして最近ブームとなっているSPACと言われる上場時点において中身のない投資信託の取り扱いまでをも始めました。
投資を始めたばかりの、右も左もわからない個人に、プロも敬遠する商品を販売することへの懸念は米国内の金融アドバイザーなどから高まっています。
自殺を受け、米国の監督官庁では本格的な調査が開始されることとなりました。
『投資において最も危険なのは、「自分が何をしているのか、分かっていない時だ」』という格言は、世界一の投資家であるウォーレンバフェットのものです。
遺書には、「自分は一体、何をやっていたのか、さっぱり分からない」と記されていました。
投資は、基礎的な知識を身に付け、様々な経験に加え、浮き沈みの激しい中で精神的な安定性や冷静さを構築していくことが重要です。

そうしたものは、10年以上の月日をかけて、様々な波乱相場や失敗を経る過程で自分の中に堆積・蓄積されていくものです。
新規参入者が、個別株を売買することは目隠しをして綱渡りをするようなものです。

もし仮に、実態の裏付けがあり、価格変動のマイルドな実物資産に投資していれば、お金、そして一番大切な命を失うことはなかったはずです。

実態なき金融商品の急騰

実態なき金融商品の象徴である仮想通貨も急騰を見せています。
ビットコインをはじめ、アルトコイン(オルタナティブコイン)と呼ばれる、より新しい通貨であるイーサリアムは3月の底から急上昇し、年初来で150%以上の上昇を見せています
このような実態なき資産の急騰は、2017年末を彷彿とさせるものです。
金余り相場では、ハイリスク資産や新種の金融商品、実態のない資産への資産流入が見られます。

2017年末のゴルディロックス相場末期の仮想通貨上昇は、金余りの最たる例です。
緩和路線(ハト派)のイエレン議長から引き締め路線(タカ派)のパウエル議長への移行とともに、株式市場をはじめとした世界の金融市場は下落に転じました。

実物資産は嘘をつかない

様々な金融商品が存在しますが、実物資産は嘘をつきません。
一般的な好景気の下では、金をはじめとした実物資産の価格は低迷します。
好景気は金利の上昇を引き起こすため、金利のつかない実物資産の魅力は相対的に低下するからです。
2017年には、過度な利上げを強行する、タカ派パウエル議長の就任を懸念して株式市場と金価格は同時に上昇を続け(長方形でマークされた1つ目の期間)、2017年末に株式は下落しました。
また、本年(2020年)の株式市場の暴落の前にも、株式の上昇と金価格の上昇が同時進行していました。(2つ目の期間)
そして現在、急激な資産価格の上昇に歩調を合わせつつ、金価格も上昇を続けています。(3つ目)
過去を振り返っても、金が実態を示しているのです。
つまり、現在の株式と金の同時上昇はどこかで終焉を迎えることは、ほぼ間違いないと言えます。

そうしたとき、実物資産こそが「資産防衛の盾」となります。
特にアンティークコインは、金と異なり、価格変動がマイルドで、じわじわと上昇する特性を有しています。
金価格は、先物取引をはじめとした金融派生商品の影響により、多額の資金にレバレッジが重なり、荒い値動きとなります。

また、金の延べ棒は購入時に個人情報が把握され、売却時には累進課税方式がとられます。
他方で、アンティークコインやモダンコインは、匿名性にすぐれ、税制的にも恵まれています。
加えて、コインの価格変動は金と比較して極めてマイルドであり、リーマンショック直後でさえ、金が下落するなか、コインは継続的な上昇を記録しました。

実態なき金余り相場の下での資産価格の上昇は終焉を迎え、その破綻は金融資産の上昇が急激であった分だけ、より激しいものとなるでしょう。

そのきっかけとなるのは、
1)急激な名目金利と実質金利の上昇
2)金利上昇に伴う中央銀行の財務不安
3)各国政府の利払い増と財政悪化・破綻懸念
がメインシナリオとして挙げられます。

これは、ドル建て負債に依存する新興国から始まり、南欧諸国に飛び火、その後に先進国にまで影響が及ぶと思われます。
そうしたとき、実物資産、中でも「様々な実物資産の良いところを融合した投資先」であるコインは、投資先としての正しさを証明することになると思われます。

読者さまへのお詫び

前回の「【vol-64-グローバルマクロニュース】感染再拡大のいま発信したいこと 後編 医学、薬学、疫学的見地から」におきまして、読者さまにご不便をおかけいたしましたこと、心よりお詫び申し上げます。

記事の執筆にあたりましては、可能な限り「コンパクトかつ深く」という二律背反するアンビバレントな命題の中、最適解・均衡点を探りつつ、ボリュームと内容を調整しております。

ですが、前回におきましては、
1)人命と国難に関する内容であること
2)1つの記事・URLに一元化し、統一することでの情報の集約化を優先し1つの記事が長文となってしまいました。

また、「グローバルマクロニュース」におきましては、内容や意見等は全て筆者の見解である点も併せてご理解いただければ幸いです。
今後も「グローバルマクロニュース」をよろしくお願い申し上げます。

筆者 阪倉