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大英帝国の伝統を今の世に伝える3つの偉大なる香り

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みなさまこんにちは、この度初めて記事を書かせていただきます、コインパレスの室田と申します。

私は過去に10年間、大学と大学院留学のために遥かなる希望と栄光の大地イギリスに滞在していましたが、その間見聞きしたことを中心に、敬愛する同国とその文化についての物語をエッセイストとして皆様とシェアできたらどんなに素晴らしいことだろう、と思い投稿させていただくことになりました。

今回は大英帝国華やかなりし世から現代に至るまでイギリスに代々伝わる真にイギリス的な三つの香りのご紹介です。
と申しましても格式ばった物ばかりではなく、実際我が国日本で手軽に入手できる物もありますのでご安心の上ご一読ください。

平凡かつ崇高な芳しさが秀逸なトワイニングのアールグレイ

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紅茶大国として世界的に名の知れたイギリスについて筆を執りますので、当エッセイも紅茶についての話で幕を開けるのが理想的ではないかと思いました。

世界の中心ロンドンにはイギリスを代表するハロッズやセルフリッジなどの一流百貨店や英国王室御用達のフォートナム・メーソンがあり、
その食料品売り場には様々な高級食材と並行して最高級紅茶の数々が並び、大英帝国の栄華ここに極まれりとばかりに燦然たる輝きを放っております。

しかし、イギリスで味わうことのできる極上の紅茶は高級店の商品ばかりではありません。持ち帰りを意味するテイクアウェイ(テイクアウトはイギリス英語ではありません)の紅茶は通常蓋つきペーパーカップ仕様で、街中にあるニュース・エージェントでもどこでも容易に手に入ります。
優れた紅茶の種類はいろいろありますが、滞在中に飲む機会が最も多かったのは1706年創業のトワイニング社のアールグレイで、イギリスの至る所で見かけました。
仄かにベルガモットの香りが漂うこの名ブレンドは、マグカップやペーパーカップで注文しても、その香りに身を委ねると一瞬にしてヴィクトリア時代の立派な邸宅の純英国調サロンに誘われているかのような錯覚にとらわれること請け合いの称賛に値する一品です。

世界中どこにいても、また日本にいたとしても、慎ましくも風格のあるイングランドの大地そのもののような、
その奥ゆかしく懐かしいウッディー調の薫香を感じながら熱い一杯を頂く時、遠きロンドンのビッグベンの荘重な鐘の音がかすかに聞こえて来るような気がしてなりません。

英国紳士らしさの追求:名香フローリスNo.89

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世界最古に属する香水商、英国王室御用達の名店フローリスは数々の伝説を誇る英国屈指のフレグランスブランドとして広く世に知られています。
1730年創業ということは今年で御年290歳ということになりますが、その華麗なる歴史を代表する名香が本店の所在地に由来する名前を持つNo.89に他なりません。

記録的興行成績を打ち出した映画の名作007シリーズにおいて、主人公のジェームズ・ボンドが身にまとっていた香水として名高いオードトワレです。
ロンドンの目抜き通りピカデリー・サーカスの裏に並行して通っている古風な紳士用品店が並ぶ瀟洒な趣のあるジャーミンストリートにその本店は居を構えています。
"英国紳士"という表現がありますが、繊細にして大胆なイングリッシュ・ジェントルマンの多彩な魅力を感じさせる宙を漂うその香気は
"英国紳士とは何か"の根源的な問いに対する最も正確な答えとして通用し、常に英国社会の注目を集めて今日に至っています。

トップノートはシトラス系の清々しさが明快ですが、ウッディー調のベースは威厳を湛えており、あらゆる角度から観て男性的なフレグランスであると断言できるでしょう。
昨今、ロンドンの街中で英国紳士らしき男性を見かける機会は極めて稀ですが、フローリスのNo.89こそ本物の英国紳士を現代に蘇らせる奇跡の名香であり、
古き良きイギリス精神を十二分に伝達する馥郁たる文化遺産でもあります。