1509-1526 ヘンリー8世 エンジェル金貨 NGC AU55 S-2265

英国におけるルネッサンス期最高の教養人、ヘンリー８世の波乱の生涯

父ヘンリー7世によるテューダー王朝の樹立は、中世イングランドを舞台とした薔薇戦争の終焉を決定づける画期的な事象として歴史上に刻まれ、また同時期にヨーロッパ大陸にていち早く爛熟期を迎えていたルネッサンス時代の英国における本格的な幕開けを意味する重要な出来事としても英国史上に記憶されています。戦陣の巷を駆け巡った孤高の英雄ヘンリー7世は、その全治世を賭して英国の国力強化を推進し、当時、未だ北海の小国に過ぎなかったイングランドの功名を高めることに尽力しました。その偉大なる遺産を受け継いだのは、早世した王太子に代わって王位を継承した次男にして後のヘンリー8世その人でした。数えきれないほどの伝説に彩られた王の治世下に英国は空前の繁栄を謳歌し、時代の息吹きを伝える新たな文芸の興隆と時を同じくして、英国独自の価値観によるルネッサンス文化が見事に開花するに至ります。時代の最先端を行くルネサンス人を自認し、実際にそれに値する高い教養を誇ったヘンリー8世こそは、テューダー朝2代目にして数々の改革を推進した有言実行の君主でした。王権のみならず、王室の権威を強化するために国王が断行した政策の影響力は計り知れませんが、中でもイングランド国教会のローマ・カトリック世界からの離脱は、王を国教会の教義上、唯一無二の存在と定め（国王至上法の制定）、首長としての英国王の権力を確立します。イタリア語、スペイン語、ラテン語を始めとするヨーロッパの諸言語を流暢に操り、並外れた外交手腕を発揮したヘンリー8世は、自身の下に集中した強大な権力を継承するに値する直系の男子の誕生を強く望んでいたと言われています。情勢不安なルネッサンス期の世界において、英国が真の大国としての運命を切り開くに当たり、強力なカリスマ性を持ち合わせた男性の君主の存在が不可欠であるということを王は痛感していました。王は時折、各国大使が集まる公の場に重厚な甲冑姿にて登場することもあり、力強い国王としての存在感をアピールすることによって英国の権威を諸外国に誇示することを決して忘れなかったとされています。他方において、王は文化の守護者としての自身の存在を強く意識していたと言われており、自ら楽器を演奏し、文章や詩を書き、自ら作曲したとされる楽譜も現存しており、広範囲に及んだ王の教養を物語っています。教育にも関心を示していた王は、オックスフォード大学のクライストチャーチやケンブリッジ大学のトリニティー・カレッジを始めとする教育施設の創設に尽力し、またハンプトンコート宮殿やホワイトホール宮殿等、王室所有の第一級建造物の改築にも情熱を注ぎました。馬上槍試合時の落馬が原因で徐々に健康を害した王は、1547年1月、エドワード6世を後継者として推戴した直後、56年間にわたった波乱の生涯を安らかに終えます。

ヘンリー8世時代の英国の限りない繁栄を象徴するエンジェル金貨の傑作

英国史上最高の教養人と謳われるヘンリー8世。その生涯はひたすら国力の強化とキリスト教社会における王室の優位の確立に捧げられ、王亡き後、その功績は王の子女たちによって受け継がれることになります。今回ご紹介させていただくエンジェル金貨は、ヘンリー8世の崇高な王権を象徴し、王の在世当時の国力を示す16世紀イングランドが生んだ歴史的な逸品です。エンジェル金貨自体が英国貨幣史上に初めて登場するのはヘンリー8世の生きた16世紀から遡ること100有余年前のことで、ヨーク朝の始祖、国王エドワード4世時代の貨幣鋳造の第二期の始まり（1465年）と共に英国貨幣史上最初期の大量発行による法定金貨の一種として産声を上げました。それまで主流であったノーブル金貨に代わって生まれたエンジェル金貨は、表面に象徴的なエンジェル（天使）が描かれていたためにそう命名されました。初導入時には、ノーブル金貨の新版と見なされていたため、「エンジェル・ノーブル＝気高い天使」と呼ばれることもあったようです。当コイン表面中央に描かれた長い槍を携え両翼を有する大きな肖像は、キリスト教のみならず、古くはユダヤ教の経典、さらにはイスラム教にも登場する「聖ミカエル」と呼ばれる大天使を描くものです。地面に横たわる悪の権化として描写されるドラゴンを退治する天使の姿は、国家の安泰を希う国王のあるべき姿をシンボライズしているかのようです。一般には天使の最高位と紹介されることの多いミカエルですが、キリスト教の教義に登場する際には下位から2番目の地位にある天使とされています。崇高感漂う天使の姿は王朝を代表する金貨のモチーフとしては最適であり、当コイン最大の見どころとなっています。裏面には大海原を悠々と駆け抜ける大型の帆船が描かれており、中央にはそれぞれイングランドとフランスを意味する三つのライオンとフルール・ド・リスの紋章を刻む盾形の紋章が見られます。さらにその上部にはヘンリー8世のイニシャルと思しきアルファベットHが刻まれており、裏面全体を支配しています。15世紀以降、歴代英国君主によって受け継がれることになるエンジェル金貨ですが、当作品は王権の限りを尽くして国家に捧げられたヘンリー8世の忠誠心を象徴するデザインが当時の歴史を雄弁に物語り、英国におけるルネッサンス期を体現したテューダー王朝の過去の栄光を雅やかに表現する16世紀英国アンティーク貨幣を代表する選りすぐりの秀作に他なりません。

品番	2473
鑑定番号	5702191001 現在のNGC鑑定数はここをクリック下さい
グレード数	AU 55
重量	5.02 g
直径	約29 mm
表面	聖天使ミカエルの竜退治
裏側	紋章を乗せた船
発送元	日本国内から発送