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紅茶は人生を映し出す鏡

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皆様こんにちは、コインパレスの室田でございます。如何お過ごしでしょうか?
台風の影響か少し涼しくなったように思います。気候の変化が激しい季節でもありますので、どうかお体に気を付けてお過ごしください。
さて、今回のブログですが、紅茶の本場イギリスならではの紅茶の多彩な魅力についてのエッセーをお届けしたいと思います。

英国紅茶の香り漂う一日
イングランドの早朝はアーリー・モーニング・ティーで幕を開ける

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朝、早起きして一杯の熱い紅茶を心ゆくまで味わうひと時、イングランドに移り住んで本当によかったとつくづく思ったものでした。朝食のずっと前、起き抜けに飲む紅茶の習慣をアーリー・モーニング・ティー(早朝のお茶)と呼びますが、
紅茶の香りで満たされるイングランドの朝ほど気分を高揚させてくれるものはなく、希望と自覚に満ちた一日の幕開けにふさわしい朝の喜びがそこにはあります。豪華なティーセットをシルバーのトレイに乗せてサーブされる郊外のマナーハウスでの
アーリー・モーニングティーはもちろん折り紙付きですが、自宅のキッチンでマグカップにティーバッグを一つ無造作に放り込み、
電気ケトルで沸騰させた熱湯を注いでスプーンで自分の好みの濃さに調節して淹れるごくありふれた普通の紅茶であっても、イングランドの早朝のひと時の愛すべき習慣に相違ありません。

イギリス人は本当に紅茶をよく飲む国民であるとつくづく思います。同時に紅茶の深い味わいを知る国民でもあります。時間の経つ間もなく、アーリー・モーニングティーに続き朝食でも紅茶は食卓の主役でなければならず、
滋味あふれるイングリッシュ・ブレックファーストと相性のいい濃い目のミルクティーで締め括られるのが真の英国流です。イギリスだからと言って英国人が毎日豪華絢爛たる高級ホテルのアフタヌーン・ティーを楽しんでいるわけではありませんが、
我々外国人にとっては大英帝国の遺産であるアフタヌーン・ティーの豪華さには目を見張るものがあり、紅茶と共にテーブルを飾る三段重ねのスタンドのペーストリーとサンドイッチとスコーンの競演は、
伝統と格式のイギリスならではの豊かさと想像力の産物と見受けられます。
他方で、オフィスでの午後のひと時や家庭での昼下がりに、お茶菓子はあってもなくても午後の空気を感じながら紅茶を味わうささやかな時間を持つことが許されることは、イギリスでこそ可能な懐の深い恩恵だと思います。

ハイティーはアフタヌーン・ティーと似ていますが、イングランドより日没時間が早いスコットランドで生まれた全く別の流儀で、少し遅い夕方に軽食と共に出される寛いだ紅茶の時間を指します。甘いデザートではないパイ料理などはハイティーの定番で、
暗い夕方のスコットランドで紅茶と共にしみじみと味わうハイティーは格別の趣で、アフタヌーン・ティーほどの華やかさはないものの家庭的な良さを感じさせるスコットランドならではの気の利いた習慣であると言えます。
このように紅茶を嗜む趣向はイギリス人の生活の奥深くまで浸透しており、たとえそれが豪華なティールームの中であっても、
またこじんまりとした自宅の書斎であっても、イギリスの至る所で愛され受け継がれてきた優雅でありながらもごく普通の「イギリスらしさ」であり、世界に自慢できる「味わう」イギリス文化と呼んで差支えないと思われます。

アールグレイで辿る英国紅茶の春夏秋冬

イギリスで最も人気のある紅茶の一つにアールグレイがありますが、柑橘系香料のベルガモットで香りづけされたこのブレンドティーは数々の伝説と共に語り継がれ、
ヴィクトリア王朝時代から現代に至るまでティーカップから立ち上るその幻想的な香気で人々を魅了し続けてきました。
気まぐれな思いつきかもしれませんが、イングランドの四季を代表的なブランドの4種類のアールグレイの味と香りで表現してみようと思います。

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「イングランドの冬は7月に終わり、8月に再び始まる」と詩に詠んだのは、ジョージ王朝時代のイギリスを代表する偉大なる知性として後世に名を残す詩人、六代目バイロン男爵でした。決して大袈裟だとは思えないイングランドの冬の寒さの端的な表現は、
イングランドに住んだことのある者なら誰しも思い当たるもののはずですが、イングランドの一年を冬と捉えた卿の慧眼もさることながら、この厳寒の季節ほどイングランドらしい美しさで人々を魅了するものはないのではないかと実感します。
そんなイングランドの峻厳たる気候と絶妙な相性の良さを見せる紅茶は、ロンドン・ピカデリーにある創業300年の老舗、フォートナム・メーソンのスモーキー・アールグレイをおいて他にあり得るでしょうか。非常に重厚感のある味と香りが特徴的で、
よりスモーキーな紅茶を、との王室のリクエストによって生み出されたとされる絶品で、霧が立ち込め気が滅入るほど暗く寒い冬の午後を思わせるその陰影に富む濃厚な香りは、「英国の冬ここにあり」とばかりに圧倒的な威厳を放っています。

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結構肌寒い4月のイングランドですが、5月に入りますと少し気温が上がり、イングランド名物でもある長雨の日が続きます。ロンドンの街全体が生き生きとした表情を見せ、冬にはなかった活気を再び取り戻します。
そんな清々しくも心地よい悠然たる春のイングランドは、陶磁器で有名なウェッジウッドのアールグレイの気品あふれるアロマで表現されるべきでしょう。
同社の硬質なボーンチャイナ製カップの内側から反射する芯のあるベルガモットの香りは、春たけなわのイングランドの芳しき新緑のカーペットの表面を歩く心地よさで、上質ながらも透明感が抜きん出た魂の紅茶です。

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初夏のイングランドは幾分気温が上昇しているにもかかわらず、まだまださわやかで過ごしやすい日が続き、色とりどりの植物や花が街中の公園に咲き乱れ、一年中で最も華麗な季節の到来を感じさせます。
ジョージ王朝時代の風景画家ジョン・コンスタブルの描いたジョージ王朝時代さながらののどかな田園風景が、この季節イングランドのあちこちで繰り広げられ、咲き乱れる薔薇が一層の華を添えます。
ホットで飲むのが紅茶の定番だと思われるかもしれませんが、この時期のみは大きめのワイングラスで氷をたっぷりと入れてひんやりと豪華に楽しんでみるのはいかがでしょうか。
ウィッタード・オブ・チェルシーはロンドンの高級住宅街チェルシーに本店を構えるヴィクトリア女王の治世創業の紅茶専門店ですが、
このお店のアールグレイはコクがありベルガモットの香りも強めなのでどちらかというとアイスティー向きと言えそうです。濃い目に淹れたストレート・アールグレイを氷と共に大きめのガラスジャグでサーブし、ミントの葉をあしらいますと、初夏のガーデンパーティーの主役として人気を集めそうです。日の長い夏の午後のイングランドで味わいたい見た目にも清涼感溢れる極上のアールグレイです。

乾いた空気と共に晴天続きの10月の気候に心地よさを感じたら、イングランドの秋の兆しかもしれません。深まりゆく秋を背景に心に一抹の孤独を感じはじめたときこそ、紅茶の香り漂う自由無碍な時間と空間による慰めが必要なのではないでしょうか。穏やかで夢見心地の秋たけなわのイングランドに似合う紅茶は英国王室御用達の高級食料品店パートリッジのアールグレイで、秋の紅茶でこれを超越するものを探し出すのは困難を極めそうです。ベルガモットもしっかりと香りますが、紅茶の葉自体のクオリティーが大変高く、また味と香りの絶妙なバランスがその個性の極みで、大きめのポットでよく蒸らして淹れ、黄昏時のイングランドの美しさを五感で感じながらゆっくりと時間をかけて頂くべき生命力みなぎる英国紅茶の精華です。

ロンドン・英国紅茶アンティークの万華鏡

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ロンドン市内のデパートや高級ホテルでの本格的アフタヌーンティーは実に素晴らしく、紅茶の味はもちろんのこと、デザートやサンドイッチの味は筆舌に尽くしがたく、期待と感動以上のものが用意されていることは確かです。
では、ロンドン市民の自宅での紅茶の楽しみ方は如何ばかりなものでしょうか。どんなに豪華な高級ホテルなどの商業施設でのティータイムであっても、アンティーク食器を用いて紅茶やデザートがサーブされることはまずあり得ません。
どうやらイギリスならではのアンティーク尽くしのティータイムは、アンティーク好きなイギリス人のお宅で楽しむのが何よりのようです。と申しますのも、イングランド全土で毎日のように開催されているアンティークマーケットには、
ホテルでは決して見かけることのないありとあらゆる紅茶のための道具が並んでおり、イギリス人が数百年間に渡っていかに普段の生活に紅茶を取り入れて来たのかがよく分かるからです。

各王朝時代のカップ類やティーポットを含むティーセットはもちろんのこと、純銀やメッキ製のティースプーンやティーストレーナー(茶漉し)、また用途の分からないながらも、何とも表現できない美しい道具など、
現在のイギリスがかつて紅茶貿易で栄えた大英帝国の仮の姿であって、今もなお美味なる紅茶に関しては右に出るもののない大国であるということを思い出させてくれるいわゆる「ティー・アンティーク」が所狭しと並んでいる光景は圧巻です。
ロンドンでアンティーク巡りを続けていて、時々見かけるものにジョージ王朝時代に流行した「モートスプーン」というものがあります。スプーンのボウル部分にカットが施され穴あき模様になっているもので、
これはかつて茶漉しがなかった時代にポットからカップにお茶を注いだ直後にカップに漏れてしまった茶葉を取り除くためのスプーンで、柄の部分はポットの注ぎ口に詰まった茶葉を掻き出すために使用されていたと伝えられている、
何とも優雅な時代の空気を反映するイギリスならではのティー・アンティークの一種です。

イギリス最大の常設マーケットとして知られる「ポートベロー・マーケット」は、紅茶好きのイギリス人が好む上質なティー・アンティークが取り揃えられていることでよく知られていますが、丸一日を費やしてティー・アンティークを探すのも土曜日のイングランドならではの贅沢ではないでしょうか。同じく土曜日に開催されるロンドンの人気住宅街イズリントンの「カムデン・パッセージ・マーケット」はポートベローと違ってずっと落ち着いてアンティークを探すことのできる静かな場所で、ディーラーたちもどことなく商売気質とは無縁の様子で、
ゆっくりとティー・アンティーク探しをするにはうってつけの穴場マーケットです。ポートベローもカムデン・パッセージもどちらも土曜日の開催ですので、一日で両方を渡り歩くのもまた楽しいものです。

購入したティー・アンティークでずっしりと重くなった手提げ袋を両手に抱えてアンティークマーケットの喧噪を逃れ、自宅でアンティーク尽くしの午後のティータイムをすることが待ち遠しくなって来たので、
マーケット周辺で昼食をとる暇もなく地下鉄の駅へと急ぎ、一目散に帰宅することにします。過去の遺産であるアンティークを普段の紅茶生活に取り入れて人生を豊かにする術を心得ているイギリス人こそ、
紅茶の神髄を世に伝える鑑であり、彼らの愛する紅茶こそ一人の人間の人生を映し出す鏡である、とティー・アンティークで溢れかえるポートベロー・マーケットの雑踏を後にしてふと感じる土曜の午後でした。