トリスタンダクーニャ 2018 エリザベス2世 ウェッジウッド スリーグレーセス 5ポンドジャスパーウェア陶貨 未鑑定 箱付き

稀代の才人ウィリアム・ワイオンのキャリア最初期の並外れた才能を証明する「スリーグレーセス」

英国随一の貨幣彫刻家一族ワイオン家の末裔として1795年に誕生したウィリアム・ワイオン。ナポレオン戦争後の英国貨幣界にて頭角を現し、キャリア最初期を代表する作品として生み出されたのが「スリーグレーセス」でした。英国貨幣の永遠の傑作とされるこの作品は、ナポレオン戦争後の連合王国の恒久的な平和を祈念して生み出されたものであり、裏面に描かれた3人の女神たちがそれぞれイングランド、スコットランド、アイルランドを象徴していると伝えられています。そしてそれら三美神の戯れは、19世紀前半の英国芸術界を席巻していた新古典様式によって余すところなく再現され、ジョージ3世の治世を象徴するコインの裏面に描かれ、英国貨幣の普遍的な題材の一つとなりました。この優れた意匠の生みの親であるワイオンは、その後「ウナとライオン」や「ゴチッククラウン」等の傑作を世に残し、英国貨幣の発行元として900年以上の歴史を持つロイヤルミントの彫刻部門主任として、また英国王立芸術院の会員としての名声を欲しいがままにします。同時代を生きた名匠ベネデット・ピストゥルッチと人気を二分したワイオンですが、その功績は英国貨幣界の権威を高めたのみならず、200年後の現代においてもその存在は伝説として生き残り、個々のデザインによって永遠の生命を得ました。同時代人でもあったヴィクトリア女王とワイオンの交流を示す逸話が残っていますが、女王にとって即位後初となった公式コインポートレートを制作したワイオンが女王の個人的な愛顧を得て大成した逸話は特に有名です。「ワイオン氏ほどに私を私が描いて欲しいように描いてくれる人物はいない」と女王の称賛を得たワイオンですが、対象物の写実性と立体感をコイン上にて表出する並外れた才能はこの「スリーグレーセス」において特に顕著であり、時空を超越するワイオン芸術の普遍性を如実に物語っています。

ジャスパーウェアの陶板にて再現されるジョージ王朝時代後期を代表する英国貨幣界屈指の名意匠

2018年に英領トリスタンダクーニャ島が発行したジャスパーウェアによる「スリーグレーセス」の復刻版は、過去にも数々の魅力的なコインの発行によって一世を風靡した同島ならではの名企画です。ジャスパーウェアは、英国四大名陶の一つウェッジウッド社が開発したテーブルウェアの名品によっても世界的に高く評価されるマテリアルですが、この度のコインの発行によって再び脚光を浴びることは間違いありません。薄いブルーの色調のベースに浮かび上がる純白のデザインは、古代ローマ人が得意としたカメオ細工を想起させるものがあり、素焼きに近い独特の質感は非現実的なものに対する憧憬を強く鼓舞し、我々の古代文明に対する飽くなき好奇心を刺激します。金属を素材とするコインとはまた違った味わいを持つ当ジャスパーウェア版「スリーグレーセス」ですが、未鑑定ながらも5ポンドの貨幣価値が付与されている事実は正に驚異的です。作品裏面に描かれている三美神の像は、コインとはまた一味違う独特の美しさを醸し出しており、背景となるペールブルーがそれらを引き立てています。表面に描かれている英国女王エリザベス2世の肖像は、英国本国ロイヤルミント発行のコインにはかつて見られなかったトリスタンダクーニャ独自と思しきもので、右向きの女王の肖像の頭部には英国王位の象徴として燦然と輝く「ステート・ダイアモンド・ダイアデム」が見られ、女王の限りなき王権を賛美しています。ロンドンの王室御用達宝石商「ランデル・アンド・ブリッジ」の制作によるこの王室屈指の秘宝は、時の英国王ジョージ4世の戴冠式に際して1821年に制作されたものです。周囲のサークレット部分のみを着用される機会の多かった在りし日のエリザベス2世ですが、実はドーム型の中央部分も存在し、その部分を取り付けて宝冠として使用することも可能とのことです。イエローダイアモンドを含む100個以上もの希少なダイアモンドによって製作された豪華絢爛たる外観を誇るこのダイアデムですが、ジョージ4世の没後はヴィクトリア女王を始め、女性王族のみによって受け継がれてきた来歴を持ちます。夢幻美を誇るダイアデムを戴くエリザベス2世の横顔とスリーグレーセスをジャスパーウェア上に刻む当コインは、それら表裏のデザインを十二分に引き立てる英国の伝統工芸品としてのジャスパーウェアの多彩な魅力に焦点を当てる正真正銘の芸術品です。