-
2020.06.25グローバルマクロニュース
【Vol.61 グローバルマクロニュース】急激な変化と生きる~withコロナの時代~逆回転編
突如意識した死
新型コロナの世界的流行と爆発的感染拡大は、世界の姿を一変させました。
各国は協調から競争へ、そして人種・国籍での差別・対立が世界各地で起きています。
人類は、淘汰という概念を可能な限り排除・緩やかにした平和な世界に生き、相互扶助の中にありました。
ですが、爆発的流行は自然淘汰という生物学的な基本原理を我々に見せつけました
突如として死が大きく口を開けて目の前に現れたのです。
人々は恐怖に慄き、恐怖はパニックを生み、極めて野生的な集団行動を生じさせました。
集団行動は、個人の理性から大きく乖離した、非合理な行動を往々にして生じさせます。
それは、トイレットペーパーや日用品の買い占めという形で顕在化しました。
20世紀の戦後思想家であり文学者である偉人は、生前に著書の中でこう述べました。
「人生というものは、死に身を摺り寄せないと、その本当の力も人間の粘り強さも示すことができない仕組みになっている。」
日本人は米国の核の傘の下に守られ、平和で死を意識しない日常を過ごしていました。
ですが、ウィルスの拡大で、大なり小なり身近に死を感じました。
結果、死の反対にある生の尊さを知ることとなったのです。
そして、毎日を生きているのではなく、生かされているのだということを実感した人も多くいます。
日常生活においても、当たり前のように思っていたことの裏で、たくさんの人々の「苦労と支え」が存在していることを再認識しました。
コロナが起こした変化は単なる疫学・医学的事象の範疇を飛び出し、一部の人々には「生に対する捉え方の変化」という、
より根源的で哲学的なパラダイムシフトを引き起こしたのかもしれません。
毎日のルーティンに追われる日々から離れ、一度立ち止まり、物事を再考し、熟慮する機会になったのは間違いないように思われます。
そして、様々な物事がコロナを契機として、劇的かつ急速に変化しています。
ですが、ウィルスが起こした淘汰の速度は、余りに突然で、対抗策を練る時間的余裕さえ与えられませんでした。
本稿では、新常態、ニューノーマルの世界における「逆回転」、「加速化」という2種類の変化のうち、
「逆回転」について、経済・政治など、多方面から具体例を交えつつ、考察いたします。
逆回転を始めた世界
・訪日外国人客数
図1、月ごとの訪日観光客数の推移 ©nippon.com
逆回転の際たる例が訪日外国人客数です。
これまで、毎月のように、対前年同月比での増加が見られた訪日外国人数ですが、その増加はついに減少に転じました。
国策としてのインバウンドに対し、筆者は元より懐疑的でした。
というのも、テロや災害などが起これば、外国人観光客の流入は一気に止まる可能性があったからです。
国策の中心に産業を据えるのであれば、観光という可逆的なものではなく、ITや医療といった、不可逆な産業を中心とすべきだと主張してきました。
なぜなら、高度産業はインターネットのように一度導入されれば、それが世界や生活を変え、元の世界に戻ることは極めて難しいからです。
図2、地盤沈下する日本の学力 ©産経新聞
そうした高度な産業を主軸に据えようにも、担い手となる優秀な人材が不足しているのが日本の実情です。
OECDがとりまとめる学力調査において、日本の学力低下が止まりません。
3年ごとに実施される同調査においては、1位の中国、2位のシンガポールなど、東アジア勢が上位を占める中、日本が順位を落とす傾向となっています。
教育という最も重要な基盤がボトルネックとなり、インバウンドという一時的な流行に頼らざるを得なかったという背景も見え隠れします。
・労働市場
労働市場における逆回転も目を引きます。
アベノミクスが始まり、実感なき景気拡大と叫ばれる中にあれ、労働市場も比較的タイトな推移を見せてきました。
図3、有効求人倍率 ©日本経済新聞
仕事を探す人1人に対し、企業から何件の求人があるかを示す、有効求人倍率は恒常的に1倍を超え、労働市場は堅調に推移してきました。
ですが、コロナの感染拡大に伴う、企業の景況感悪化に伴い、同倍率は一気に低下傾向に転じます。
3月には、相次ぐ企業倒産に続き、内定取り消しや派遣切りといったニュースが次々と報道されました。
主に製造業、そしてインバウンドや観光に直結する宿泊・飲食サービス業での求人倍率低下が目立ち、これまでの好循環が逆転していることが窺えます。
労働市場が悪化すれば、GDPの多くを占める個人消費にも悪影響が出ることは免れません。
個人消費の減少は、個人消費に頼る企業群の業績悪化を招き、同セクターの従業員の雇用環境が悪化するという悪循環への入り口なとなってしまいます。
・不動産市場
アベノミクス以降、不動産市場はバブル的様相を呈していきました。
世界的な金余りは、日本人のみならず外国人の日本不動産買いを招きました。
京都では、中国人の不動産爆買いが起きていたと同セクターの営業員から聞きます。
特に驚いたのは、物件は何でもいいので「○億円の不動産が欲しい」というものでした。
彼らの目的はさておき、外国マネーも日本の不動産価格を押し上げていたのです。
図4、REITの価格推移 ©日経新聞
REITとは、投資家から資金を集め、各種不動産に投資、その収益を投資家に分配する金融商品です。
一般の不動産と異なり、株式のように東京証券取引所において、自由に売買することが可能です。
REITの価格推移は、おおよそ不動産の価格をリアルタイムに反映しています。
値動きを振り返ると、国内でコロナが感染拡大をはじめた1月から急速に不動産価格が低下していることがわかります。
国内の経済活動が低下すれば、真っ先に不動産価格の低下として現れるからです。
REITには大量の資金流入が起きていました。
日本国債をはじめ、世界中の国債が低金利となり、日本では個人向け金利は0%近辺で推移しています。
相対的に配当利回りの高いREITに、じゃぶついたマネーが流入していたのです。
加えて、日本銀行が毎月、ETFに加え、REITの購入を行っていたことも価格が高値で推移していたことの要因となっていました。
しかし、コロナの感染拡大において、全てが逆回転したのです。
投資家は不動産価格の下落を先読みし、REITを投げ売りしました。
そして、他の投資家も、他の保有資産の下落をカバーするために、資金を退避させました。
さらに、REITを保有していた地銀も、保有分を投げ売りし、下落に拍車をかけたと言われています。
REITは、商業用や物流倉庫、医療といった目的別に分かれています。
中でも、商業用のREIT価格下落が突出しており、価格の戻りも鈍くなっています。
背景に存在するのはオフィス不要論です。
・オフィス不要論
昨年までは、多くの企業がオフィスを新設していました。結果として、オフィス空室率が低下、賃料は上昇してきました。
図5、低下から上昇に転じるオフィス空室率(20年移行は予測) ©日本工業新聞
低下から上昇に転じるオフィス空室率は、オフィス需要の低下とオフィスの供給過剰が重なった結果です。
最近になり活発化しているリモートワークに端を発する、オフィス不要論が空室率予測の上昇に拍車をかけています。
非常事態宣言の解除後でさえ、リモートワークを継続したいと答えた会社社員は約半数に上ると言われています。
「大手証券会社のディーラーでさえ、自宅で十分にトレーディングが可能であると気づいた」と、新聞の取材において回答していました。
5月に発表された企業決算の文章の中にも、オフィス投資の見送りを示唆する文章が散見されました。
オフィス賃料や通勤費を節約し、その一部を社員へ還元し、給与へ充てる企業が多く見られます。
また、自宅で必要となる通信機器や通信費を企業が肩代わりする動きも見られています。
こうした社員への還元を行っても、企業にはおつりがくるのです。
オフィスが不要であることに気づいた企業は、今後、シェアオフィスといった形をとることとなります。
オフィス投資への集中が、コロナを契機に一気に逆転したのです。
・内閣支持率
コロナ禍で一番の逆回転を見せたのは永田町の勢力図です。
第二次安倍政権発足後、圧倒的な支持率を誇った安倍政権ですが、10万円給付をはじめとしたゴタゴタや汚職を理由として、支持率は低下しています。
某メディアの調査では、岩盤と言われていた30%の内閣支持率をも割れ、20%台という「超危険水準」へと突入しました。
支持率低下と歩調を合わせるかのように、自民党内における反安倍勢力が勢いを増しています。
これまで独裁的主義的に抑圧されてきた反対勢力が、民意を盾として反撃に転じています。
内閣支持率と与党支持率の推移を見ると、安倍おろしの加速に納得がいきます。
内閣支持率>与党支持率・・・これまで
内閣支持率<与党支持率・・・いま、そしてこれから
これまでは、内閣支持率が与党政党支持率を恒常的に上回っていました。
つまり、与党議員は高い内閣支持率を武器として、地元で有利に選挙を進めることができました。
故に、与党議員も政府方針に違和感を抱くことがあれ、再選には内閣が必要だったのです。
これは、永田町で「政高党低」と呼ばれます。
他方、コロナ後においては、内閣支持率が与党支持率を下回る「党高政低」となっているのです。
「党高政低」の環境下では、現在の内閣に与党全体が足を引っ張られてしまいます。
自民党県連からも、強引な政権の選挙介入への反発が聞かれ、各与党議員も自身の再選に危機感を抱き始めました。
これまでの高圧的な官邸主導に対する、マグマの如く溜まった不満が爆発しつつあると言えます。
危機時において、通常、内閣支持率は上昇すると言われています。
ですが、コロナがもたらした内閣への風向きの変化は、想定外の逆回転となり、永田町の景色をガラリと変えつつあります。
おわりに
本稿では、コロナがもたらした急激な変化、つまり「逆回転」と「加速化」のうち、「逆回転」をクローズアップいたしました。
経済のみならず、政治や個人の生き方にまで、コロナは変化をもたらしました。
もはや、これまでの常識や発想が通用しない時代に入ったといえます。
それは国内に留まらず、グローバルな潮流として息吹いています。
人種差別問題への世界的な意識の高まり、中国の勢力拡大、半島情勢の緊迫化など、枚挙にいとまがありません。
コロナは我々人類に、「強制的な進化」を強いました。進化は変化を伴いつつ、着々と進行しています。
金融市場では、各国中央銀行が強行する資金供給により、株式市場が支えられています。
ですが、その裏では、実物資産への移行が着々と進んでいます。
実物資産が最注目され、スポットライトが当たっていること。これも大きな潮流の1つであります。
なかでも、「実物資産の成長株」である、アンティークコインは昨年末からハイグレードコインが市場から姿を消しています。
その結果、不確実性を増すwithコロナ時代を映す「鏡」のような存在として、輝きを放っています。
2020年は、新時代の幕開けといえます。
我々は新時代の目撃者なのかもしれません。